伊豆旅⑤|モエ?ブーブ・クリコ?いや、シャトーT.Sの辛口泡に驚いた午後

中伊豆ワイナリーのテイスティングルームの白ワインボトルとグラス

――午後の陽が、シャトーの窓をやさしく照らしていた。

鐘の余韻を残したまま、
僕らは静かにグラスを手にする。


「今日はどんな味に出会えるんだろ」

ユンがつぶやいた。

目次

伊豆の泡に、フランスが重なる

中伊豆ワイナリーのスタッフがスパークリングワインを開けているカウンターの様子

はじめに試飲で選んだのは、よく冷えた辛口スパークリング
一口目で、僕は目を見開いた。



――モエ?ブーブ・クリコ?

いや、

これは伊豆のシャトーT.Sの 伊豆 スパークリングワイン 爽輝だった。



泡のきめ細かさ、
鼻に抜ける柑橘の清涼感、
すっきりとしたキレ。
シャルドネ70%、信濃リースリング30%
爽やかな青りんごとライムの香りが広がり、口当たりはキリッとドライ。

シャルドネの凛とした酸に、信濃リースリングのやさしい果実味が寄り添うよつな…
まさに伊豆の陽光を感じる、華やかで上品なスパークリング。

有名シャンパーニュと比べても遜色ないその仕上がりに、
思わずユンもグラスを傾けたまま、静かに笑った。

中伊豆ワイナリーの試飲スペースでワイン樽の上に置かれた赤白のテイスティンググラス

ワイン樽のテーブルで飲む赤の辛口

2023年製のスパークリングワインと冷えた白泡ワインが注がれたグラス

とろける甘口のスパークリング

グラスの向こうに、物語があった

シャトーTSのスタッフの方と美味しいワイン、モイの写真

ワインを注いでくれたスタッフの方が、 優しい声で語ってくれた。

「T.Sの意味、ご存じですか?」
「それは、創業者・志太勤一――
このシャトーを生んだ人物の頭文字なんです」

“Tsunekazu Shida”の夢が詰まった場所なんですよ」

「シャトーT.Sは、もともと“シダックス”が立ち上げたプロジェクトで、
『日本で、世界に誇れるワインを』という想いからスタートしたんです」

その声はまるで、
このワインの物語そのもののようだった。

――最後に一枚、写真をお願いした。
ワインを手にした僕とスタッフの笑顔。

光が柔らかく差し込むカウンターで、

小さな一期一会が、そっと一枚に焼き付いた。

テイスティングの午後、静かに進む物語

中伊豆ワイナリーのテイスティングルームでワインを入れる
中伊豆ワイナリーのテイスティングルーム

試飲は、たった100円から。
でもその一杯には、遠くのぶどう畑とシャトーの時間、 職人たちの手間と想いが詰まっていた。

グラスに注ぐ手つきもまた、ひとつの芸術。
磨かれたカウンターの向こう、 スタッフの静かな所作が泡よりも美しく見えた。

「この辛口…ほんとに最高…」
ユンがそう言いながら、 グラスの底に残る泡をじっと見つめていた。

――買わなかったわけじゃない。
買うのを、忘れていた。

ぶどう酢とドレッシングは忘れず買ったのに…
あの一杯のことを、何度も思い出しては悔やまれる。


また来よう。今度は、あの泡を連れて帰るために。

中伊豆ワイナリーヒルズ|施設情報

モイのワイン評|シャトーT.Sの“本気泡”

このスパークリング、ただの「国産」にあらず。
完成度は、高く、香りも泡も、美しく整っていた。
「また飲みたい」と思わせる味に、出会えた。

次回予告|あの丘の上、エクシブ伊豆で夜を迎える

シャトーをあとにした僕らは、 車を走らせてあの丘へ。

今夜の宿はエクシブ伊豆
葡萄の余韻を胸に、リゾートの扉を開ける。

伊豆旅ナビ|旅の記憶をたどる

風が吹くまま、気の向くまま――
修善寺から始まった旅は、そっと地図を描いていく。


旅の軌跡を、もう一度。

  • ▶ 伊豆旅① 修善寺の竹林に迷い込む
  • ▶ 伊豆旅② 蕎麦の香りに立ち止まる
  • ▶ 伊豆旅③ クラフトビールに心ほどける
  • ▶ 伊豆旅④ まるでプロヴァンス!中伊豆ワイナリー
  • ▶ 伊豆旅④ 鐘を鳴らし、プロヴァンスを想う
  • ▶(当記事)伊豆旅⑤ シャトーで白泡に酔う午後
  • ▶ 伊豆旅⑥ エクシブ伊豆“豪華な会員制リゾート
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