【実録】実家売却までの日々|第5話:境界杭の確認と、母の彩り

コンクリートの地面に埋め込まれた、赤い印が残る境界杭の拡大写真

前回、前々回と、「要望書」「告知書」というガチガチの書類を作りました。
机の上での作業は終わり。
あとはこれを不動産屋さんに持っていくだけ……なのですが。

その前に、どうしてもやっておかなきゃいけないことがありました。
書類に書いたことの「裏付け」です。

「境界杭、あるって書いたけど本当にあったっけ?」
「雨漏り、無いと思うけど天井見たっけ?どうなってるのかな?」

それを確認するために、久しぶりに実家へ向かいました。
そこで僕は、予想していなかった「母の遺したもの」を見つけました。


目次

第5話 実家への帰還|境界杭の確認

コンクリートの隙間に埋め込まれた境界標

冬の空気は澄んでいて、誰もいない実家はさらに冷え切っていました。
鍵を開ける音が、妙に響く。

まずは仕事モード。
「告知書」通りになっているか、現地での答え合わせです。

現実的なチェック作業

まずは前面道路。
ここには「境界杭」があるはずです。

記憶を頼りに、枯れ草や土を靴の先で掘り返す。
……あった。
コンクリートの頭に赤い矢印。

「よし、これはある。」

  • 境界杭:あり(赤矢印のコンクリ杭)
  • 汚水桝:位置のみ確認(開けるのは怖い)
  • 雨漏り:新しいシミは断定できず(不明で正解)

次は玄関のマンホール。
落ち葉に埋もれていた蓋をほうきで掃く。
「汚水」と書かれた文字が見える。
開けるのは怖いけど、位置は確認できた。

庭にある錆びた汚水桝のマンホール

そして2階の雨漏り。
天井を見上げる。
照明の周り、和室の天井板。

和室天井の古い雨漏り跡

新しいシミは……ないかな?
やはり問題無いな、と再確認しました。

淡々と確認作業を進める僕。
この家はもう、僕にとって「思い出の場所」から「掃除する場所」に変わりつつありました。

そう、母の遺作を見つけるまでは。


棚の奥から出てきた、極彩色の記憶

大人の塗り絵『身近な花と実』の表紙

一通り確認を終え、リビングの棚を整理していたときです。
古い雑誌や手紙の束に混じって、一冊の本が出てきました。

『大人の塗り絵 身近な花と実』

ああ、これ。
数年前、僕が母にプレゼントしたものだ。

当時、母が「最近なんだかやる気が起きなくて」とこぼしていたのを聞いて、気休めにでもなればと渡したやつ。
渡したことすら忘れていました。

「どうせ、手つかずだろうな」

母は面倒くさがりで、こういうものも開くことさえしないところがあったから。
まっさらな白紙のページが出てくるのを予想して、パラパラとめくりました。

手が止まりました。

丁寧に塗られたピンクの花の塗り絵

塗ってある。
それも、驚くほど丁寧に。

花のグラデーション。
葉っぱの一枚一枚まで、濃淡をつけて塗り分けられている。

「え……?」

ページをめくる。
鮮やかな色が目に飛び込んでくる。

色使いが上手になっているのが分かりました。
途中で止まってはいるもののそこに心を感じるような。

そう……まるで、昨日まで塗っていたかのような。


僕は、母の何を知っていたんだろう

色とりどりの花の塗り絵、途中まで塗られたページ

その場に座り込んでしまいました。

母さん、こんなに色彩感覚があったんだ。
こんなに根気があったんだ。
一人でこのテーブルに向かって、どんな顔をして色鉛筆を握っていたんだろう。

「綺麗じゃん。上手だよ母さん……」

誰もいないリビングで、思わず声が出ました。

なんで生前、一度も「見せて」って言わなかったんだろう。
「送った塗り絵、やってる?」って聞かなかったんだろう。
もし聞いていたら、母は照れくさそうに、でも誇らしげに見せてくれたかもしれない。

「すごいね」って言ったら、もっと話が弾んだかもしれない。

親のことは知っているつもりでいました。
でも、僕が知っていたのは「母親としての母」だけ。
一人の女性として、どんな色が好きで、どんな時間を過ごしていたのか。
僕は何も見ていなかったんだな。

冷たい床の上で、塗りかけの塗り絵の本だけが体温を持っているように温かく感じました。


不燃ゴミの音と、決別

実家の片付け・不燃ごみの分別作業

しばらく呆然としたあと、僕は立ち上がりました。
感傷に浸っていても、売却の時計は止まってくれません。

作品は、カバンに入れ、もう一度ゆっくり見よう。

そのあとは、心を鬼にして作業に戻りました。

欠けた陶器。
古いガラスのコップ。
使い古した鍋。

これらは「思い出」ではなく「不燃ゴミ」として処理しなければなりません。

ガシャン、カチャン。

ゴミ袋の中で硬いものがぶつかり合う音。
その乾いた音が、今の僕には救いでした。
音を立てるたびに、少しずつ「親の家」が「空っぽの箱」になっていく。

「ありがとう。お疲れ様」

最後に袋の口を縛るとき、心の中でそう呟きました。

※ネットでの売却について

僕は古い人間なので、結局は地元の不動産屋さんに直接行きました。
ただ、「今の時代、ネット完結の方がスマートなのかな?」と思って、実はいくつか調べてもいたんです。

例えばこれ。
スマート仲介

僕は使いませんでしたが、売主側の利益を重視するスタンスのようで、今回の記事のような「ありのまま伝える」やり方とは相性が良さそうです。
いきなり不動産屋に行くのはハードルが高い……という方は、こういう現代的なサービスのほうが合うかもしれません。


次回予告|終わらない残置物撤去と、鉄くずの行方

感傷に浸ったのも束の間。
現実は待ってくれません。

まだ不動産屋さんに中を見せれる状態ではありません。
だって、まだまだ残置物はたくさん。
鉄くずもまだ残っているから。
鉄くず?

そうだ、かつて愛用していた自転車のフレームも実家から持ち出し、以前スクラップ屋に売った時のように、また持ち込もう。

次回、鉄くずを業者に持ち込んで現金化します。
ゴミがお金に変わった話です。

これから売却を考える方へ

僕は運良く地元の不動産屋さんと縁がありましたが、
もしツテが一切ない状態でスタートするなら、
まずは「自分の家の適正価格」をネットで調べてから動くと思います。

何も知らずに相談に行って、安く買い叩かれるのだけは避けてくださいね。

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