極上のおもてなし『日本の宿 古窯』宿泊記②|山寺1,015段の先へ。蔵王の湯とクラフトビールをめぐる一日

焼きたてのクロワッサンに、たまらず車の中でかじりついた僕。

芳醇なバターの香りと、シートの上に散らばった無数の欠片を残して、山形の朝はまだ始まったばかりです。

この日の終着点は、かみのやま温泉に佇む『日本の宿 古窯』

けれど、旅は目的地へ急ぐだけでは少しもったいない。

石段の先で心を静め、力強い湯に身体を預け、その土地で生まれたビールにも触れてみる。

古窯へ向かうまでの時間にも、あとから思い返したくなる場面がいくつも待っていました。

なお、宝珠山 立石寺蔵王温泉 下湯共同浴場については、たくさんの写真とともに別の記事で詳しくご紹介する予定です。

こちらでは、立ち寄るたびに旅の空気が少しずつ変わっていく、僕らの一日の足取りを時系列でお楽しみください。

目次

朝の山寺へ。日枝神社側の駐車場から始まる小さな登山

Bakery Niinaをあとにして、車は宝珠山 立石寺、通称『山寺』へ。

今回は、山寺日枝神社側にある駐車場へ車を停めることにしました。

山の緑へ吸い込まれるような坂道をゆっくり進んでいくと、さっきまでの市街地とは空気が違って感じられます。

さあ、ここからは車を降りて、自分の足で進む時間です。

宝珠山立石寺の日枝神社側駐車場へ続く坂道

山寺日枝神社側の駐車場へ。緑の奥へ続く坂道から、山寺歩きが始まります。

この駐車場で印象に残ったのが、駐車料金の支払い方でした。

備え付けの鉛筆で車のナンバーを紙に書き、料金を包んでポストへ入れます。

係員とのやり取りも、精算機の操作もありません。

素朴なのに無駄がなくなんともスマートな山寺スタイルですね。

宝珠山立石寺の日枝神社側駐車場近くにあるトイレ

駐車場のすぐ近くには、きれいに管理されたトイレも。石段へ向かう前の、何気に大切な安心ポイントです。

そして、駐車場のすぐ近くにトイレがあることも見逃せません。

この先に待っているのは、長い長い石段です。

出発前に安心して立ち寄れる場所があり、しかもきれいに管理されている。

旅先では、こういう何気ないことが思っている以上に大事なんですよね。

宝珠山立石寺本堂前の標柱と境内

宝珠山 立石寺の本堂前へ到着。石段へ急ぐ前に、境内を渡る風へ耳を澄ませます。

『着いたー』

駐車場から歩いてほどなく、宝珠山 立石寺の本堂前へ到着しました。

訪れたのは5月でしたが、この日はなかなかの暑さ。

ところが木々に囲まれた境内へ入ると、頬を撫でる風がすっと涼しく感じられます。

まだ石段を登り始めてもいないのに、すでに少しだけ日常から離れたような気分。

このあたりにも、足を止めて見て回りたい場所がいくつもあります。

数字だけを追って先へ急ぐのではなく、まずは山寺の静かな空気に身体をなじませながら、ゆっくり歩いてみることにしました。

1,015段の石段。登るほど、心の中が静かになる

宝珠山立石寺の奥之院へ続く石段

登山口から奥之院まで、石段は全部で1,015段。木々の間へ、道は静かに続いていきます。

いよいよ『登る山寺』の表情が濃くなってきました。

登山口から奥之院まで続く石段は、全部で1,015段

ゆっくり見て回るなら、往復で約1時間30分が目安とされています。

1,015段と聞けば、始める前から少し身構えてしまいます。

けれど、頭上を覆う木々が強い日差しをやわらげ、林の中には荘厳でひんやりとした空気が漂っていました。

目の前の一段へ足を置き、次の一段へ。

急がず、競わず、ただ自分の呼吸と足音だけを確かめながら登っていきます。

不思議なもので、身体は少しずつ疲れていくのに、頭の中は反対に軽くなっていきました。

仕事のこと。

家のこと。

これまでにあった、いろいろなこと。

登り始めは次々と浮かんでいた思いが、目の前の石段へ意識を向けるうちに、少しずつ言葉を失っていきます。

自分と向き合いながら登っているはずなのに、やがて『自分』さえ前へ出てこなくなる。

心が無になり、日々まとわりついていた邪念が、汗と一緒に静かに流れていくようでした。

宝珠山立石寺の五大堂から望む山寺の町並みと緑の山々

石段を登った先、五大堂から望む山寺の町並み。ここでは、少しだけ時間の流れが変わります。

『いい景色……』

眼下に広がる門前町と、幾重にも連なる緑の山々。

しばし時を忘れ、その景色を眺めていました。

風が通り抜けるたび、汗ばんだ身体から熱がほどけていきます。

『今まで、いろいろあったな。。』

そんなことをぼんやり考えながら、いつの間にか物思いにふける僕。

山寺は、高い場所へ登って景色を見るだけの場所ではありませんでした。

一段ずつ余計なものを削ぎ落とし、自分の内側へ静かに入っていく場所。

登り切った達成感よりも、心の中に生まれた静けさの方が、深く残る時間となりました。

名残惜しさを抱えながら、ゆっくり石段を下り、山寺をあとにします。

このあとはこの時期にしかお目にかかれない『天保蕎麦』をいただき、蔵王温泉へ向かう予定でした。

が、まだそれほどお腹が空いていませんので。。。

天保蕎麦は、また次に山形へ来る理由として、大切に残しておくことにしましょう。

では、蔵王温泉もやめるのかって?

いやいや……もちろん温泉には浸かりに行きますよ〜

蔵王温泉『下湯共同浴場』

山寺から車を走らせ、やってきたのは蔵王温泉。

細い道が続く温泉街へ入ると、姿を見るよりも先に、鼻の奥へすっと届く温泉の卵のような香りの心地よさ。

『来たぞ!!』

蔵王温泉の木造共同浴場である下湯共同浴場の入口

木造の素朴な佇まいが残る『下湯共同浴場』へ。入口に立つ前から、鼻や目から、耳からも蔵王の湯が存在をアピールしてくれます。

今回選んだのは、温泉街にある三つの共同浴場のひとつ『下湯共同浴場』です。

せっかく来たのだから全部入りたい気持ちもありますが、ここは欲張らず下湯だけ。

一度で回り切ってしまえば、次に蔵王へ戻ってくる楽しみが、ひとつ減ってしまいますからね。

上湯と川原湯は、また次回。

こうして小さな宿題を残して帰るのも、旅を長く楽しむ方法のひとつとしておきます。

蔵王温泉下湯共同浴場そばの湯の花に覆われた湯口

下湯共同浴場のすぐそばにある、湯の花を幾重にもまとった湯口。神々しい湯と時間が育てた、蔵王の小さな彫刻。

そして下湯のすぐそばには、これまた美しき湯口が。

流れ続ける温泉が淡い乳白色の湯の花を重ね、まるで自然がゆっくり彫り上げた作品のような姿になっています。

整い過ぎていないからこそ美しい。

人の都合とは関係なく、今日も同じように湯が生まれ、流れ続けている。

この造形と、輝き、あたりを包む硫黄の匂い。。

もう……たまりませんね!

入る前から、心はすっかり湯の中です。

さてさて、そろそろ入ってみましょうか。

蔵王温泉下湯共同浴場の木造浴室と白濁した湯船

扉の向こうに待っていた、木の浴室と白く揺れる湯。見ただけで身体が先に緩み始めます。

『おほぉぁ。。。』

中へ入った瞬間、思わず声が漏れました。

『きたきた……これだよ、これ。。』

木に包まれた小さな浴室。

鄙びた湯船には、蔵王らしい白みを帯びた湯が静かに満ちています。

鮮度が良いので透明感あるのがまたたまりません。

湯温は、体感では43℃ほどでしょうか。

しっかり熱を感じながらも、熱さと心地よさの境目に収まる、僕好みの温度です。

そっと身体を沈めると、山寺の石段で溜まった足の疲れが……。

『すぅーっ』

と消えていくような感覚。

すぐに何かが劇的に変わるわけではないのに、身体の奥で固まっていたものだけが、湯へ溶け出していきます。

この体感がある温泉は、やはり僕の好みに近いんですよね。

無理に長湯はせず、いったん出て身体を休め、また湯へ。

出ては入りを繰り返しながら、蔵王の力強い湯を存分に楽しみました。

車で訪れる方へ
蔵王温泉内は道が狭く、共同浴場には霊泉広場駐車場が近いのですが台数が少ないので注意してください。時間に余裕がある方は『蔵王体育館前駐車場』を利用し、温泉街を歩いて向かうと安心です。時期により料金や利用条件が変わるため、訪問前に公式案内をご確認ください。

足取りも軽くなったところで、蔵王温泉をあとにします。

下湯共同浴場の湯づかい、浴室の様子、入浴時の注意点などは、別記事でたっぷりとご紹介しますね。

さて、次は『道の駅やまがた蔵王』へ少し立ち寄りましょう。

蔵王の湯のあとは、蔵王生まれのクラフトビールを少しずつ

道の駅やまがた蔵王へ到着すると、この日はなかなかの賑わい。

人も多ければ、車も多い。

それでも、広い駐車場がその混雑を許容してくれます。

混んではいますが、駐車場所を探して延々とさまようほどではありません。

車を停め、道の駅に隣接する山形県観光物産会館『ぐっと山形』へ。

今回のお目当ては……。

そう!

館内にある『ZAO BREWERY』です。

ぐっと山形のZAO BREWERYに並ぶ4種類のクラフトビール

カウンターに並ぶ、蔵王の風景を映した4種類のクラフトビール。眺めているだけでも、それぞれの違いが気になります。

ZAO BREWERYでは、蔵王の大自然が育んだ湧き水を仕込み水に使い、蔵王や山形をモチーフにしたビールを造っています。

カウンターに並んでいたのは『ZAO CLASSIC IPA』『SNOW MONSTER』『YAMAGATA さくらんぼ ALE』、そして『MATSUNOMORI ALE ~Re-fresh~』の4種類。

せっかくですから、ここはひとつに決めず、4種の飲み比べでいきましょう。

ZAO BREWERYの4種飲み比べセットとZAO CLASSIC IPA

まずは『ZAO CLASSIC IPA』から。旅先で、その土地に根ざしたブルワリーの一杯へ向き合います。

さて、まずは『ZAO CLASSIC IPA』から。

口へ運ぶと、IPAらしいホップの香りと苦味が、輪郭をはっきりと描きます。

旅先で、その土地に根ざしたブルワリーのビールを自分の舌で確かめてみる。

味そのものだけでなく、いま自分が蔵王にいるという背景まで一緒に飲む時間は、やはりいいものです。

ZAO BREWERYのYAMAGATAさくらんぼALEを飲み比べる手元

山形らしい『YAMAGATA さくらんぼ ALE』
軽やかな飲み口と酸味が印象に残る一杯です。

続いては『YAMAGATA さくらんぼ ALE』

ひと口いただくと……。

『おお!』

先ほどのIPAとは雰囲気が変わり、口あたりは軽め。

さくらんぼを思わせる酸味がとても広がります。

甘さは無く僕の印象に残ったのは酸味。

酸味のあるビールが好きな方には、気になる一杯かもしれませんね。

ZAO BREWERYの白いクラフトビールSNOW MONSTERと4種飲み比べセット

蔵王の樹氷をイメージした白い『SNOW MONSTER』
4種類の中では、何気にこれだったのかな。

白く透き通るような見た目が印象的な『SNOW MONSTER』

蔵王の冬を象徴する樹氷をイメージした、ホワイトエールです。

ひと口、飲んでみると……。

『うーん……何気に、これがいちばん近いのかな』

ただ、『これが好き!』と迷いなく決めるというより、4種類を順番に味わった中で、あえてひとつ選ぶなら――という距離感。

もう一杯の『MATSUNOMORI ALE ~Re-fresh~』は、その場では名前を失念していましたが、あとからカウンターの写真を見返して無事に回収できました。

どれが好きだったかと聞かれれば、僕の舌は最後まで少し考え込んでいたようです。

今回は『これをもう一杯』とお気に入りを決めるより、蔵王生まれのビールが見せてくれる四つの表情を、少しずつ確かめる飲み比べとなりました。

誰かにとっての一番と、自分にとっての一番が同じとは限りません。

そんな自分の舌との距離まで含めて知ることができるのも、旅先で土地のビールに触れる面白さなのかもしれませんね。

さてさて僕はビールを飲んだのでユンに運転してもらいましょう。

旅の肴を地元スーパーで。準備を整え、いよいよ古窯へ

蔵王の湯とクラフトビールを楽しみ、古窯のチェックイン時間も少しずつ近づいてきました。

けれど、その前にもう一か所だけ。

旅の夜に欠かせない『酒の肴』の仕入れです。

山形の地元スーパーであるヤマザワ上山店の外観

山形の地元スーパー『ヤマザワ上山店』へ。今夜の酒の肴を探す、旅人の楽しい仕入れ時間です。

立ち寄ったのは、山形の地元スーパー『ヤマザワ上山店』

旅先のスーパーマーケットは、有名観光地とは少し違う土地の表情を見せてくれます。

地元の方が普段選んでいる食材や惣菜、見慣れない調味料に、その土地らしい酒の肴。

棚の間を歩いているだけで、ほんの少しだけ山形の日常へ混ぜてもらったような気分になります。

今夜、部屋でゆっくり過ごすための肴をいくつか選び、買い物かごへ。

宿の夕食を楽しんだあと、温泉に浸かり、部屋へ戻ってもう一杯。

その静かな時間まで想像しながら選ぶ買い物は、すでに宿での滞在の一部なのかもしれません。

山寺で心を静め、蔵王の湯で足の疲れをほどき、土地のビールに触れ、最後は地元スーパーで夜の楽しみを整える。

振り返れば、目的地へ向かう途中だったはずの時間が、どれも欠かせない旅の一場面になっていました。

さあ、酒の肴も無事に仕入れました。

いよいよ、今回の旅の舞台へ。

極上のおもてなしが待つ、『日本の宿 古窯』へ向かいましょう!

NEXT STORY
次回、ついに『日本の宿 古窯』へ。
その扉の向こうで待っていた、おもてなしの物語へ続きます。

今回の立ち寄り先

■ 宝珠山 立石寺(山寺)
所在地:山形県山形市山寺4456-1
参拝の目安:全行程の往復約1時間30分
公式サイト:宝珠山 立石寺

■ 蔵王温泉 下湯共同浴場
所在地:山形県山形市蔵王温泉
専用駐車場:なし
公式案内:蔵王温泉マウンテン&スノーリゾート

■ ZAO BREWERY
場所:山形県観光物産会館『ぐっと山形』内
公式案内:ZAO BREWERY

■ ヤマザワ 上山店
所在地:山形県上山市矢来3-7-23
公式店舗情報:ヤマザワ 上山店

※営業時間・料金・駐車場の利用条件などは変更される場合があります。お出かけ前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。

目次