美食の聖域へ『エクシブ山中湖 』宿泊記⑤|孤高のナイフで味わう極上肉。涙が溢れる至極のメインディッシュ

窓の外は陽が少しづつ傾き始めました。

個室の中は、温かみのある照明がテーブルの上だけをドラマチックに照らし出しています。

極上の前菜たちの余韻に浸っていると、次なる芸術作品が運ばれてきました。

温かいオマール海老 クスクスと富士トマトのサラダ カレー風味のソース

美しいグラデーションを描く器の中央に鎮座するのは、

『温かいオマール海老 クスクスと富士トマトのサラダ カレー風味のソース』。

鮮やかなグリーンの葉野菜と、赤く輝く富士トマトのコントラストが目を奪います。

温かいオマール海老のズーム

肉厚でプリッとしたオマール海老を口に運ぶと……美味しすぎて言葉を失います。

カレー風味という主張の強いソースでありながら、いい意味でカレー過ぎず、オマール海老の繊細な甘みを一切邪魔しません。

それどころか、後味にさっぱりとしたキレだけを残して消えていくのです。

ところで、オマール海老とロブスターの違いをご存知でしょうか?

実はどちらも同じ種類を指すことが多いのですが、大きなハサミを持つのが特徴のオマール海老(フランス語)は、旨味が非常に強く、フレンチやイタリアンでは極上の食材として重宝されています。

その圧倒的な旨味とソースのバランスに、中尾シェフの計算し尽くされたセンスを感じずにはいられません。

旬野菜と自家製サルシッチャのスパゲッティ

続いて登場したのは、『旬野菜と自家製サルシッチャのスパゲッティ』。

美しいグリーンの蔓(つる)と葉が描かれたエレガントなプレートに、こんもりと美しく盛り付けられています。

自家製サルシッチャのスパゲッティのズーム

自家製サルシッチャの絶妙な火入れ具合、旬野菜の食感、そしてチーズとの相性……すべてが最高です。

イタリア料理には、オリーブオイルとパスタの茹で汁、そして具材の旨味を完璧に一体化させる「乳化(マンテカトゥーラ)」という極めて重要な技術があります。

ごまかしの効かないシンプルなメニューだからこそ、この完璧なソースの絡み具合に、一流シェフの揺るぎない技をダイレクトに感じました。

絵画のようなアワビのソテー

そして、次の一皿が運ばれてきた瞬間、思わず息を呑みました。

『アワビのソテー 玉ねぎリゾット ハーブバターソース』。

真っ白で優美な曲線を描くプレートの中央に佇むその姿は、余白の美を活かした、まさに「絵画のような」美しさ。

アワビのドドドアップ

『うわっ、ナイフが全く抵抗なくスッと入るよ…!』

アワビ特有のコラーゲンを極限まで柔らかく仕上げる、緻密な温度管理と火入れの妙。

『噛むほどに旨味が溢れてくるね……』

アワビの持つ「コハク酸」という旨味成分が、ハーブバターの芳醇なコクと合わさることで、口の中で爆発的な相乗効果を生み出します。

下に敷かれた玉ねぎリゾットの優しい甘みが、そのすべてを優しく包み込み、昇天しそうなほどの美味しさです。

至福の余韻に浸っていると、専属スタッフさんが静かに近づいてきました。

『次のお料理に使うナイフを交換しますので、お持ちします。少々お待ちください』

ERCUIS(エルキュイ)のナイフ

(え……?)

ここまで使っていたこの美しいナイフ。フランスを代表する高級銀器ブランド「ERCUIS(エルキュイ)」のもので、すでに十二分によく切れる素晴らしいナイフです。

わざわざこれを下げるということは……一体、どんな特別なナイフが?

そして、どんな極上のお肉が登場するんだ……!?

メインディッシュの前にあえて作られたこの「ジャブ的なタメ」が、たまらなく好奇心と期待を煽ります。

褐毛和種 ホワイトアスパラガスのグラタン

き…き…来た〜。

見事なまでに美しいロゼ色の断面を見せる、『褐毛和種 ホワイトアスパラガスのグラタン』。

丁寧に料理の説明をしてくれた専属スタッフさんが、最後にニヤリと微笑むように言いました。

『では、よく切れるこちらのナイフをご用意いたしましたので、お使いください』

その言葉に、視線はお肉からナイフへと一気に釘付けになります。

LAGUIOLE en Aubracのステーキナイフ

な…な…なんと!

ソムリエナイフで世界的に有名なラギオール(ライヨール)ですが、その中でもさらに別格の最高峰ブランド、『LAGUIOLE en Aubrac(ラギオール アン オブラック)』のステーキナイフではないですか……!

職人の手仕事によって一本一本丁寧に作られた、まさに孤高の逸品。

ただ美味しい料理を出すだけでなく、それを「最高の状態」で味わってもらうために、これほどまでの名品を惜しげもなく用意してくれる。

エクシブ山中湖サンクチュアリヴィラ、イルコローレという空間、そしてスタッフさんやシェフの深い愛情に、胸がいっぱいになります。

褐毛和種のズームアップ

心を落ち着かせ、そっとナイフをお肉に当てます。

ホフッ……

なんだこの切れ味……。

お肉の繊維を全く潰すことなく、まるでバターのようにスッと切り裂いていく究極の感覚。

そして、口に入れた瞬間に広がる、言葉にならないほどの深い旨味と幸福感。

しかも…美味しすぎて…もう。

ありがとうございます……本当にありがとう……。

こんな至極の食体験をさせていただけるなんて。

最高のホスピタリティと、選び抜かれた極上のカトラリー、そして中尾シェフの技術と情熱。

そのすべてが一つになったこの瞬間、感極まって本当に涙が出そうになりました。

イルコローレでの夜は、一生忘れることのできない、まさに大人のための「聖域」そのものでした。

(魅惑のデザート編へと続く)

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